情報の管理と 安全な暮らしを考える【社会】

情報の管理と 安全な暮らしを考える


【個人情報保護と特定秘密保護】
 ネット社会の進展で個人情報を利用したさまざまなサービスが誕生し、私たちの暮らしは大変便利になりました。一方で個人情報の流出や悪用によってプライバシーが損なわれる不安が高まっています。昨年12月には国の重要な情報を漏らした公務員などの罰則を強化する特定秘密保護法が施行されました。政府による情報統制が強まり、国民の知る権利や報道の自由が脅かされるのではという心配があります。情報の管理と安全な暮らしについて考えてみましょう。

情報の管理と 安全な暮らしを考える - ベネッセの顧客情報が大量流出 -
 昨年夏、通信教育大手のベネッセコーポレーションの顧客(個人)情報が大量流出して大きな話題となりました。情報管理の業務を委託している会社のシステムエンジニアが、顧客情報を不正に持ち出して名簿業者に売却していました。
 名前や性別、連絡先、生年月日などが記された個人情報が2895万件以上も流出しました。ベネッセの顧客のもとに全く関係のない業者からDMが届いて発覚しました。
 流出した情報が詐欺グループなどの手にわたれば、利用したことのないサービスや買った覚えのない品物の代金を請求されたり、ストーカー被害に会う危険性も考えられます。

- 2005年4月、個人情報保護法が全面施行 -
 個人情報は悪用されると個人のプライバシーが侵されるだけでなく、トラブルに巻き込まれたり大きな被害に会う恐れがあります。
 個人情報を保護するため2005年4月に「個人情報保護法」が全面施行されました。この法律は事業者に個人情報を適正に取り扱うためのルールを定めたものです。
 この法律では、個人情報を収集する場合は利用目的を明確にし、目的以外のことには使わないこと。本人の同意を得ないでデータベースの個人情報を第三者に提供しないことを義務付けています。違反した業者は最大6カ月の懲役または30万円以下の罰金に科せられます。
 ただし報道や著述、研究、政治活動、宗教活動など5つ分野にはこれらの義務は課せられません。
情報の管理と 安全な暮らしを考える - 流出した個人情報の拡散は止められない -
 個人情報保護法は、個人情報の売買を禁じているわけではありません。また、企業が個人情報をビジネスに活用することを何から何まで制限するものでもありません。
 「個人情報を扱う場合は正しいルールに従いましょう」というのが法律の基本理念です。 事業者が集めた個人情報を取引きする時は本人の同意が必要と定めていますが、ホームページに情報の種類や使用目的、第三者への提供手段などを告知して、当事者から求められれば削除するといった条件を満たせば必ずしも本人の同意はいりません。
 しかし事業者がいくらネット上で、本人から請求されれば情報を削除しますと告知しても、当の本人は自分の情報がどこに掲載されて取引されるのかは知る由もありません。従って個人情報は知らないうちに削除されることなく拡散していきます。

- ネット上の個人情報は消したくても消せない -
 スマートフォンの普及でネット通販やソーシアルネットワーキング(SNS)などを通して日々収集、発信される膨大な個人情報はビッグデータと呼ばれます。このビッグデータをビジネスや医療、公共サービスに活用してより豊かで便利な「ビッグデータ社会」の実現を目指す動きが盛んです。
 ただこうした膨大な量の個人情報が、誤操作や管理ミス、紛失やハッキングなどで流出し、本人が望まない形で個人情報が利用されてプライバシーが脅かされる事件が後を絶ちません。
 さらに、交流サイトや違法なファイル交換ソフトを通じてネット上に個人情報が流出して、消したくても消せない状態が世界的に問題となっています。

- 個人情報の活用とプライバシーの保護 -
 個人情報が拡散している原因の一つに、名簿業者を通して個人情報が流通していることが挙げられます。
 個人情報保護法はもともと情報を所有する企業を対象にしており、名簿業者は想定外でした。今のところ名簿業者をチェックする仕組みや機関は存在しません。
 このため第三者機関による監視や、個人情報の活用とプライバシー保護の両立を目指した体制の整備が求められています。
 個人情報は今後ますます増え続け、集積されていきます。ビッグデータ社会を迎えていかに個人のプライバシーを守っていくのか。情報の活用とプライバシー保護のバランスをどう取っていくかがが大きな課題となっています。
情報の管理と 安全な暮らしを考える - 特定秘密保護法が昨年12月10日に施行 -
 国の重要な情報を保護する特定秘密保護法が昨年12月10日に施行されました。国の安全保障にかかわる防衛や外交、スパイ活動防止、テロ活動防止の4分野にわたる55項目が対象です。
 昨年4月に安倍政権は米国を見習って国家安全保障会議(日本版NSCと呼ばれます)を発足させました。特定秘密保護法は、安全保障に関する情報の秘密保全を欧米並みに法制化することで、米国のNSC(国家安全保障会議)と情報を共有できるようにするため制定されました。
 法律の制定に際して安倍首相は、「特定秘密保護法は日本版NSCとセットだ」と説明しています。
情報の管理と 安全な暮らしを考える - 秘密漏えいは懲役10年以下、そそのかしは5年以下に -
 国の安全保障上必要な重要情報を秘密指定するのは、防衛省や外務省、法務省、内閣府、警察庁など19の行政機関の長が行います。
 特定秘密に指定された情報を外部に漏らした公務員や契約企業の社員は10年以下の懲役に、また共謀したりそそのかしたりした人も5年以下の懲役に科せられます。
 さらに特定秘密を扱う公務員や契約企業の社員は、国籍や家族関係、財政状態、精神疾患の治療歴などが厳しくチェックされます。
情報の管理と 安全な暮らしを考える - 30年を超えた秘密指定文書は歴史公文書に -
 特定秘密保護法では秘密指定の有効期間を5年としていますが、内閣の承認があれば30年以上、最長60年まで延長することができます。ただ「暗号」などは例外的に60年を超えても延長することができるとしています。
 秘密指定が30年を超えた文書は「歴史公文書」として国立公文書館への移管が義務付けられていますが、30年以内の文書は首相の同意を得て廃棄することができます。
 アメリカでは国民が秘密指定を解除するよう請求できる制度がありますが、日本にはありません。

- 秘密指定の乱用を防ぐため監視機関を設置 -
 秘密指定の乱用を防ぐための監視機関として、内閣官房に19の行政機関の事務次官級で構成する「内閣保全監視委員会」が設置され、それぞれの行政機関を指揮監督します。
 また内閣府には審議官級の「独立公文書管理監」と約20人のスタッフで「情報保全監察室」を設け、情報の秘密指定や解除が適正に行われているかどうかを検証します。
 このほか外部の監視組織として、衆参両議院に「情報監視審査会」を置いて特定秘密保護法の運用について改善勧告を行うほか、有識者でつくる「情報保全諮問会議」が首相に意見提言を行います。

- 知る権利や報道の自由が損なわれる恐れはないか -
 しかし、政権にとって不都合な情報は、安全保障上重要でないのに半永久的に特定秘密の状態にして国民の目の届かないところに隠したり、重要な文書なのに意図的に30年以内に指定して廃棄するのでは、といった疑念もぬぐえません。
 特定秘密保護法を悪用して国民の知る権利が損なわれるようではいけません。
 また、特定秘密の漏えいや取得を働きかける行為も処罰対象とされているため、報道機関の正当な取材が法律の運用次第によって「そそのかし」や「教唆」と判断されて罪に問われる懸念があり、報道の自由が抑制されるのではという心配が残ります。

●個人情報とは?
- 個人が特定できる筆跡や音声、防犯カメラ映像も -
 個人情報保護法では、個人情報を「生存する個人に関する情報」、「特定の個人を識別できるもの」、「他の情報と容易に照合することができるもの」と規定しています。
 最初の生存する個人の情報とは、単に生きている人の情報というのではなく、すでに亡くなった人の個人情報でも生きている家族や親族に関係する場合は、法律的に「個人情報」と解釈されます。
 会社や団体などは「個人」とは言いませんが、個人と関わりのある役員や従業員などに関する情報は「個人情報」とみなされます。
 特定の個人を識別できるものとして、一般に名前や住所、電話番号、メールアドレスなどの基本情報が挙げられます。それ以外にも自分自身を表す情報として認識しているものが個人情報となります。
 例えば勤務している会社や通学している学校の住所、所属。給与や勤務評価、学業成績などです。さらに生年月日や本籍、血液型、家族構成、パスポート番号や免許証番号、クレジット番号。趣味や趣向。宗教、犯罪歴、結婚(離婚)歴、職歴(学歴)や身長・体重・スリーサイズなども含まれます。
 他の情報と容易に照合することができるものとして、防犯カメラで本人が識別できる映像も個人情報の対象となり、音声や筆跡なども個人を特定できる材料である限り個人情報となります。

●個人情報保護の歴史
- 95年の「EU指令」が個人情報保護法の引き金に -
 1970年代に入ってコンピューターが導入され、IT(情報技術)の発展によって大量の個人情報が処理されるようになると、個人のプライバシーを守るため欧米の先進国は個人情報保護の法律を相次いで制定しました。
 しかし国ごとに法律や取り組み方法が異なるため、国境を越えてビジネスを行う上で支障となっていました。このため80年にOECD(先進国30カ国で組織する経済協力開発機構)が、各国の個人情報保護のレベルを一定にするためのガイドラインを制定しました。これを「OECD8原則」と言います。
 95年にEU(欧州連合)議会が「十分なレベルに個人情報の保護を保証しない国にはEU域外への個人情報の移転を禁ずる」という「EU指令」が出されました。アメリカは「EU指令」に対応して2001年に、「SafeHarbor原則」と呼ばれる個人情報保護のガイドラインを制定してEUと合意しました。
 こうした欧米の動きを背景に、日本では2004年5月30日に個人情報保護法が公布(一部施行)され、翌年の05年4月1日に全面施行されました。
 個人情報保護法は、事業目的にデータベース化された5000人以上の個人情報を所有する企業を対象としています。しかし現実には不正に流出した個人情報が名簿業者を経て第三者に流通し、個人のプライバシーが損なわれるケースが相次いでいます。
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