土地の値段はどうして決まる【社会】

土地の値段はどうして決まる


【地価と経済はどう関わっているのか】
 土地の値段(地価)が上がった、下がったと言われます。株と同じように地価は景気が良くなれば上がり、悪くなると下がります。2008年に起こったリーマンショックと呼ばれる金融危機で世界的な不況となり、以来日本はデフレ不況で地価が下がり続けました。昨年、東京や大阪など大都市の一部で地価が6年ぶりに上向き始めましたが、土地の値段はどうして決まるのでしょうか。景気とどう関わっているのでしょうか。

土地の値段はどうして決まる - 土地や建物は動かないので不動産。お金やモノは動産 -
 土地は固定していて動かないため建物と共に不動産と呼ばれます。お金や一般のモノは自由に移動できるため動産と言います。資産としての不動産を固定資産、動産は流動資産と言います。
 土地はモノと同じように売買することができます。土地そのものは動きませんが取引によって流通していきます。土地を売買する時の値段を「時価」と言いますが、基本的には動産と同じように、需要と供給のバランスによって取引価格が決まっていきます。
 ただ、土地は場所や用途によっていろんな種類に分けられ、土地の利用や取引に際してさまざまな取り決めや制約があります。

- 土地は用途や所有者によって分類される -
 土地は用途に応じてさまざまな種類があります。人が住んでいる土地は「宅地」、商業活動を行う土地は「商業地」です。このほか工場など生産活動をする土地は「工業地」、農業を行う土地は「農地」、林業は「林地」や「山林」と呼びます。それぞれ税金や取引条件などが異なります。
 また土地は所有する者のタイプによって呼び方が異なります。国が所有する土地は「国有地」、地方公共団体が所有する土地は「公有地」、個人(または会社など)が所有する土地は「私有地」といいます。

土地の値段はどうして決まる - 政府や自治体が土地の値打ちの目安となる評価額を公表 -
 一般に個人にとって土地を売買することは、人生に何度もあるものではありません。不動産は一生の買い物といわれるだけに慎重にならざるを得ません。 
 「この辺りの土地の値段はどのくらいなのか」というおおよその目安が分からなければ、相場からかけはなれた価格で売買されることになります。
 そこで政府や自治体は、土地の値打ちの目安となる評価額を調査して毎年公表しています。それが新聞などで大きく取り上げられる「基準地価」や「公示価格」、「路線価格」と呼ばれるものです。

- 国税庁が課税評価の目安として公表する路線価格 -
 土地の価格は「一物四価」ともいわれます。一つの土地(物件)の値打ちに四つの見方、もの差しがあるという意味です。まず一つは土地の取引の際に決まる売買価格で、「時価」と言います。
 これに対して、政府や自治体が調査して公表する公的な価格が「路線価格」、「公示価格」、「基準地価」で、土地売買の相場や課税評価の目安となります。
 このうち路線価格というのは、国税庁が土地(建物を含む)にかかる相続税や贈与税の算定をしたり、固定資産税の評価額を決める時の基準となる価格です。
 評価時点は毎年1月1日で、その年の7月1日に公表されます。市街地の道路に面する土地の1㎡当たりの単価(標準評価額と言います)で、調査地点は全国で約39万8000カ所と非常に多いのが特徴です。

- 国交省が地価動向の指標として公表する公示価格 -
 また国土交通省が宅地や商業地、工業地の取引や、公共工事に使う土地を買い取る際の値段の目安として、毎年3月に公表しているのが公示価格です。公示される価格はその年の1月1日時点のもので、土地価格の動向を示す指標として新聞紙上で最も大きく報道されます。
 2013年の公示価格の対象市町村は全国1389(東京23区と785市538町43村)で、対象となった標準地は2万6000カ所です。2706人の不動産鑑定士が評価を行いました。
 それぞれの地点について2人以上の不動産鑑定士が別々に鑑定評価を行い、その結果を調整して価格が決定されます。

- 都道府県が幅広く調査して公表する基準地価 -
 さらに都道府県が、毎年7月1日時点の全国各地の住宅地や商業地などの代表的な地点の1㎡当たりの価格を9月に発表するのが「基準地価」です。公示価格が都市計画区内を主な対象としているのに対して、基準地価は都市計画区域外の住宅地や商業地、工業地、山林などを含んでいるのが特徴です。
 2013年は2万1989カ所で調査しました。全国の不動産鑑定士が手分けして最近の取引状況などを踏まえて鑑定し、各都道府県の専門委員が調査結果を検討して知事が基準地価を決定します。
土地の値段はどうして決まる - 大都市の一部で6年ぶりに地価が上向きはじめた -
 2008年にアメリカで住宅ローンの焦げ付きから銀行が破綻したのを皮切りに、リーマンショックと呼ばれる金融危機が世界的に広がりました。以来、日本は慢性的なデフレ不況となり、地価は下がり続けました。
 安倍政権はアベノミクスと呼ばれる経済政策でデフレ不況からの脱却をめざしています。昨年7月1日時点の基準地価では、東京、大阪、名古屋の三大都市圏で、住宅地が前年比0・5%上昇(前年は0・1%下落)し、2008年以来6年ぶりに上昇に転じました。
 商業地も1・7%上昇して前年の上昇率(0・6%)を上回りましたが、地方は平均で住宅地が1・8%下落、商業地が2・2%下落して、全体としての地価は停滞を続けています。

- 「バブル景気」の張本人は地価の高騰 -
 みなさんは「バブル景気」という言葉を耳にしたことがあると思います。「バブルの崩壊」もよく聞かれます。
 泡(バブル)のように急膨張した景気が、瞬く間に泡のようにはじけてしまったという意味です。80年代後半から90年代にかけて、日本が経験したこのバブル景気の張本人が実は土地(地価)でした。
 80年代に入ったころ、米国は日本をはじめとした海外からの輸出攻勢で深刻な不況に陥っていました。世界経済に大きな影響を与える米国の景気を立て直そうと、85年に先進5か国の財務担当大臣が集まってドルを安くし、円が高くなるように2国間の通貨を交換する取引相場(為替レートといいます)を調整しました。プラザ合意と呼ばれるものです。
 これによって日本製品は米国市場で値段が高くなって売れなくなり、鉄鋼や造船、自動車などの輸出産業が大打撃を受けて日本は不況に陥ってしまいました。

- 「土地は必ず上がる」と多くの企業が土地を買いあさる -
 不況対策として政府は、銀行が企業に貸し出す金利をどんどん下げてお金を借りやすくしました。このとき企業では銀行からお金を借りて株や土地を買うことが大流行しました。
 当時、土地の値段は必ず上がる。絶対に下がらないという「土地神話」がありました。金利が安いのでお金を銀行に預けても大して増えません。そこで土地を買っておけば確実に上がるのでもうけも大きいと、不況に悩む多くの企業が本業以外に「財テク」の一つとして投資目的で盛んに土地を購入しました。
 みんなが土地を買うので地価はどんどん上昇し、買った土地を担保にしてさらに銀行からお金を借りて土地を買い漁るという異常な事態になりました。当時強引に土地を買いたたく「地上げ屋」が社会問題になりました。

- 東京23区の地価総額でアメリカ全土の買い占め可能 -
 転売目的の土地売買で地価は高騰し、89年には東京23区内の商業地の地価は、1年間で80%以上の上昇率となりました。数字の上では東京23区の地価総額でアメリカ全土を買い占めることできるほどになりました。
 銀行は購入した土地を担保にさらにお金を貸し付け、土地を持っている企業や個人の資産価値は急上昇して消費が拡大しました。
 このためモノはどんどん売れて会社の業績は拡大し、給与も増大して消費はさらに過熱して、経済はまさに「バブル」のように膨れ上がっていきました。

- バブル崩壊で地価は暴落。巨大な不良債権を抱え銀行は破たん -
 加熱した景気を鎮静化するため、政府は土地への融資の規制や金利の引き上げ(金融引き締めといいます)を行いました。さらに湾岸戦争の勃発で原油価格が高騰して一気に景気は冷え込み、平均株価はわずか9か月余りでピーク時の半分近い水準にまで暴落してバブル経済が崩壊しました。
 バブルの崩壊で全国的に地価が下落し、担保価値が下がったためお金を貸していた銀行は巨大な不良債権を抱えて、大手の金融機関が次々と経営に行き詰まっていきました。
 銀行から借金して土地を買い漁っていた企業は軒並み経営破たんに追い込まれ、バブル景気は一気にしぼんで多くの企業や個人投資家が泡のように消えていったのでした。

- 東京オリンピックやリニア新幹線に期待膨らむ -
 現在、東京や大阪、名古屋など一部の大都市を除いて相変わらず地価の下落は続いていますが、下がり幅は小さくなっています。昨年7月に発表した路線価や同9月発表の基準地価では、地価は上向きの気配を見せているようです。
 地価は株価と同じように景気のバロメーターとなります。2027年開通を目指して東京(品川)-名古屋間を40分で結ぶリニア新幹線の着工や、5年後に迫った東京オリンピック関連工事などへの期待から、今後地価は景気の回復と連動して全体的に上昇傾向に転じると見られています。
土地の値段はどうして決まる ●「土地所有のミニ歴史」
- 人類の歴史と共に移り変わる土地所有 -
 土地は山や海と同様自然の一部で、太古の昔は誰のものでもありません。土地の所有は文明が生み出したもので、人類の歴史とともに変遷してきました。
古代の王や豪族は土地を財産(所有物)としてよりは、「縄張り」、「支配地」として捉え、そこに住む民を使役して農耕や遊牧を行う地域を統治する勢力圏と認識していたようです。
 日本は645年の大化の改新で天皇を中心とした律令国家へ移行し、豪族が支配していた土地や人民を国家が直接支配(公地公民)しました。国家は戸籍を作って公地を公民に貸し与え(班田収授法)、新たに税制(租庸調)を整備して財政の確立に努めました。また、全国を国と郡に分け(郡国制度)、中央集権体制を強化していきました。
 732年の三世一身法や743年の墾田永年私財法で開墾した土地の私有が認められ、貴族や有力寺社は農民を集めて開墾に精出し、私有地の拡大を図りました。この土地は「荘園」と呼ばれ、土地の私有化が本格的に始まりました。
 朝廷に任命された荘園支配者の国司と、荘園の管理や年貢の徴収を行う地方武士の守護や地頭が土地の支配権を巡って争い、やがて武士が抬頭して守護大名や下剋上による戦国大名が誕生します。
 江戸時代は土地の8割を武家や寺社が所有し、庶民の所有は2割程度に過ぎませんでした。そして明治になって1873年の地租改正で税は年貢(物納)から税金(金納)となり、税金を払う人は耕作者(農民)から土地の所有者(地主)に変更されました。
 土地の所有が法的に確認されたわけで、土地は資産として認識され、資本や労働とともに三大生産要素の一つとなったのです。
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