120年ぶりに民法が改正される【社会】

120年ぶりに民法が改正される


【私たちの暮らしと民法を考えてみよう】
 私たちの生活に身近な法律である民法が、およそ120年ぶりに大きく改正されます。普段あまり意識しませんが、民法では物を売買したり、お金や部屋を貸し借りする時のルールなどが定められています。どこがどのように変わるのでしょうか。民法と私たちの暮らしとの関わりを考えて見ました。

120年ぶりに民法が改正される - 民法は社会生活を営む基本的なルール -
 皆さんは「六法」という言葉を見たり聞いたりしたことがあると思います。たくさんある法
律でとくに大切な六つの法律を指して六法と呼びます。
 六法には、国の体制など基本的なことを定めた「憲法」。犯罪とその刑罰を定めた「刑法」。商取引のルールなどの「商法」。裁判などの手続きを決めた「民事訴訟法」と「刑事訴訟法」。そして財産や結婚など国民が社会生活を営む上での取り決めを定めた「民法」があります。
 憲法は国の最高法規と言われ、法律よりも上位にある法で、民法を含めた他の法律は憲法の精神に沿うように規定されています。法律が憲法に適合しているかどうかの「違憲審査」があり、最終審査が最高裁判所で行われます。
120年ぶりに民法が改正される - 法律の空白部分は判例や慣習で補う -
 一般に法律は公法と私法に分けられます。
 公法というのは国や地方自治体などの公的機関と、国民や住民との関係を定めた法律のことで、憲法や刑法、税法、行政法。さらに裁判所が関わる民事訴訟法や刑事訴訟法などがあります。
 私法は、世間一般の人たち(私人といいます)のさまざまな行いの責任分配を定めた法律で、私人ルールや民事ルールとも呼ばれます。
 民法は市民が日常生活を送るうえで、売買や賃貸、借金、結婚、相続など様々な場面での手続きやルールを取り決めた私法の一つです。
 しかし、複雑な市民生活の中では、法律に規定されていない様々なトラブルが発生する場面も出てきます。この場合の空白部分は慣習や過去の判例で補っています。
120年ぶりに民法が改正される - 民法は財産法と家族法の計5編で構成 -
 民法が書かれた法律は「民法典」と呼ばれます。1000以上の条文からなり、財産に関して書かれた財産法と、家族や相続に関して書かれた家族法に分けられます。
 まず財産法では、財産法を中心にした民法全体の共通事項をまとめた「総則」。物の支配・管理・処分について規定した人と物のルールの「物権法」。様々な権利や義務の発生原因や処分、不法行為などを規定した人と会社の契約ルールである「債権法」の3つに分類されます。
 一方の家族法は、結婚や離婚、養子縁組など家族に関する事柄を規定した「親族法」。相続や遺言などを規定した「相続法」に分類されます。
 民法は財産法、家族法合わせて5編からなる多くの条文によって、市民生活を営む際の基本的なルールを細かく規定しています。

- 不平等条約撤廃に向け民法や商法を作成 -
 明治維新後、政府の悲願は幕末に欧米列強と締結した不平等条約を撤廃することでした。しかし、裁判制度や基本法典(民法や商法)が整備されていないという理由で欧米列強は撤廃を認めませんでした。
 このため明治政府は、治外法権の撤廃や関税自主権の回復など不平等条約の一日も早い改正を目指して裁判制度の確立や民法、商法の制定を急ぎました。
 日本国内においても法典の整備は切実でした。全国統一の裁判規範がないため、裁判官は慣習を考慮しながらも、自分の価値基準によって民事事件を裁いていました。そこで、日本国中どこでも同じルールによる事件の解決が強く望まれていました。

- 1898年(明治31年)に民法が施行 -
 民法は総則・物権・債権の3編が1896年(明治29年)に、2年後の98年(同31年)に親族・相続の2編がそれぞれ公布(制定)され、同年7月に合わせて民法5編が施行されました。
 民法は制定以来約120年が経過しましたが、この間に市民生活や経済環境は大きく変化しました。しかし戦後、日本国憲法の施行に伴う1947年(昭和22年)5月の「家制度の廃止」や、2000年(平成12年)4月施行の「成年後見制度」などを除いて、民法の大きな変更はなされませんでした。
120年ぶりに民法が改正される - 時代の変化に対応した分かりやすい民法へ -
 120年の歴史を持つ民法は旧文体で読みづらいものでした。20
04年(平成16年)に文語体から口語体に、カタカナから平仮名表記に改められました。今回の大改正は、社会・経済の変化に対応するとともに、規定をより明確にして国民に分かりやすいものにしようという狙いがあります。
 改正民法は、今年3月末に閣議決定され、現在開催中の国会(注①)で成立する見通しで、成立後3年以内に施行される予定です。
 約120年ぶりとなる大改正では、人と会社などとの契約を定めた債権法部分で約200項目が変更されます。
 改正で特に重要とみられるのが、債権(未払金)の時効の統一です。現在の民法では債権が無効となる時効を原則10年としていますが、特定の業種についてはそれぞれ個別に時効が定められています。
 例えば飲食のツケは1年、塾の授業料は2年、お医者さんの診療費は3年、DVDのレンタル料やホテルの宿泊料は1年といった具合です。改正民法では業種ごとの時効規定を撤廃し、時効は原則5年としています。

注①:現在開催中の国会会期は平成27年1月26日から同6月24日までの150日間。民法改正案は会期中に提出され、国会承認を得て成立の見通し。

- 一方的に消費者の不利益となる約款は無効 -
 インターネットショッピングでは、細かい文字が並んだ約款の文章の最後の「同意する」というボタンをクリックすると、契約内容に同意したとみなされます。近年、さまざまなネット取引が増大して約款に関するトラブルが後を絶ちません。
 今度の改正では、会社と消費者の間の取引内容を決めた約束事である「約款」を、分かりやすく明記することとしています。
「配達された商品が壊れていても責任は負いません」といったような、消費者の利益を一方的に損なう内容の約款は無効とする規定が設けられます。
 このほか、部屋を借りる時に納める「敷金」は、これまで法律的にあいまいでしたが、原則として部屋を借りた人に返すことが義務付けられます。

- 融資の際の個人保証が原則禁止に -
また、金融機関が中小企業などに融資する際に求める個人保証が原則禁止となります。 さらに、これまで年5%だった法定利率が、低金利時代にふさわしく年3%に引き下げられ、3年ごとに見直されることになります。法定利率というのは、税金の滞納や、損害賠償金の支払いが遅れた場合の利息です。例えば、交通事故の被害者が亡くなった場合、将来得られるはずだった収入の合計に見合った損害賠償金の計算などにも適用されます。

- 認知症患者など意思能力のない人の契約は無効 -
 今回の民法改正のポイントは、消費者や中小事業者の保護に重点が置かれています。賃貸契約の敷金ルールの明確化や、一方的に消費者に不利益とならないための約款の見直し、個人保証の原則禁止、法定利率の引き下げなどがそうです。
 ほかにも購入した商品に欠陥などが見つかった場合、商品を販売した会社に損害賠償や契約の取り消し、商品の修理や代金の減額などを求めることができるようになります。
 また、本格的な高齢社会を反映して、認知症などを患って意思能力のない者が交わした契約は無効というルールが明文化されます。
【民法典論争】- フランス色の民法からドイツ色の民法へ -
 日本の民法は明治維新後間もない1870年(明治3年)ごろから編纂事業が始まりました。
 明治政府の顧問をしていたフランスの法学者ボアソナードを中心に民法草案を起草し、1890年(明治23年)に公布されました。これは旧民法あるいはボアソナード民法と呼ばれます。
 1893年(同26年)に施行を予定していた旧民法は、フランスの民法を参考にして家(戸主権)よりも個人に重きを置いていました。これでは日本の家制度の良さが破壊されると各界から強い批判の声がありました。このため、施行を断行しようとする明治政府と、施行延期を主張する穂積八束東大教授などが中心となって民法典論争が起こりました。この結果、1892年(同25年)に帝国議会で民法施行延期法案が提出され、この年の11月末に旧民法の施行は無期延期となりました。
 これを受けて明治政府はドイツの民法典を参考にして旧民法の修正作業を進め、1898年(同31年)7月16日に現在の民法全5編が施行されました。 
 明治政府が願ってやまなかった治外法権の撤廃は1899年(同32年)に達成され、不平等条約によって認められなかった関税自主権の回復はずっと遅れて19
11年(同44年)に実現しました。
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