観光立国「日本」を 支えるために【社会】

観光立国「日本」を 支えるために


【不足する「通訳案内士(通訳ガイド)」】
 外国人旅行者の訪日を促進するため、政府は2003年に地方公共団体や民間と共同で「ビジット・ジャパン」キャンペーンを開始しました。以降、訪日ビザ(査証)の要件緩和や円安などを受けて、中国などアジアを中心とした訪日ブームが続き、昨年の訪日外国人は過去最高の1974万人を記録しました。今年中には2000万人を突破すると見られています。こうした中、日本を訪れる外国人に対して、日本の歴史や文化、政治、経済など日本の生活習慣を外国語を使って紹介する通訳案内士への関心が高まっています。

観光立国「日本」を 支えるために - 通訳案内士は「民間外交官」 -
 通訳案内士とは、訪日外国人に報酬をもらって日本の案内をする人のことで、国家資格となっています。よく通訳案内士と通訳士と混同されることがあるようでが、仕事内容やスキルはかなり違っています。通訳士に求められるスキルは、会議などの席で外国語から日本語、あるいは日本語を外国語に訳すことです。相手の話すことを十分理解し、正確に解釈して訳すことが求められ、会議などが終了すれば仕事は終わります。
 一方、通訳案内士は、基本的には外国人に寄り添い、自分の言葉を交えて外国人旅行者に分かりやすく観光案内などを行います。このため、高い語学能力とともに、政治、経済、文化など幅広い分野にも精通していなければなりません。日本に対して好印象を抱いて帰ってもらうため、いわば「民間外交官」として重要な役割を担っています。このため、国家資格としての「通訳案内士」の資格取得が求められています。
 通訳士は人の話を忠実に訳すという受け身の仕事であるのに対し、通訳案内士は相手の意図を理解しながら自分の言葉で詳しく説明するという能動的な仕事といえるでしょう。

- 通訳案内士になるためには -
 2015年4月現在、通訳案内士試験に合格し、通訳案内士として登録している人は1万9033人です。
 通訳案内士の試験は毎年1回行われ、一次試験では外国語(英語、中国語、フランス語、スペイン語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語、ロシア語、イタリア語、タイ語の10言語)、日本地理、歴史、一般常識に関する筆記試験が課されます。二次試験では外国語による口述試験が行われ最終合格者が決まります。
 2015年度の通訳案内士試験の最終合格者が、今年2月に発表されました。これによると、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催、語学検定試験優秀者など筆記試験免除の対象となる資格が増えたため、総受験者数は1万975人(対前年度比50・5%幅)に達し、これに伴って合格者も2119人(対前年度比27・8%増)と増加しました。しかし、合格率は19・3%にとどまり、通訳案内士の資格取得は狭き門であることに変わりありません。
観光立国「日本」を 支えるために - 資格取得者の言語や居住地に偏り -
 昨年、1974万人の外国人が日本を訪れましたが、そのうち82・9%にあたる1637万人が中国などアジア圏からの旅行者です。通訳案内士は、これらの国々からの旅行者の案内に従事しますが、表に見られるように英語の合格者が他の言語を大きく引き離しています。しかし、日本への旅行者が一番多い中国人に必要な中国語の合格者は86人、合格率は7・2%に過ぎません。韓国語やタイ語も同様で、国別旅行者と通訳案内士数が比例していません。さらに、通訳案内士の居住地別合格者数の上位5位をみると、東京都(769人)、神奈川県(293人)、千葉県(156人)、大阪府(112人)、埼玉県(111人)となっており、都市部に居住している人が大半を占めています。
 中国人旅行者に代表される、いわゆる爆買いが一段落し、日本を深く知りたいというニーズが高まり、地方の観光地などに足を向ける旅行者も増えています。通訳案内士の偏在は、外国人旅行者に不便を与えるだけでなく、政府が掲げる「観光立国日本」への大きな妨げになります。
観光立国「日本」を 支えるために - 地域に根ざした「特例ガイド」 -
 通訳案内士として外国人に有償ガイドを行うには、試験に合格して通訳案内士の資格が必要です。しかし、通訳案内士の都市部への偏在、言語的偏在などの問題がありました。政府は新成長戦略に基づいて、地域の要望に幅広く対応するために総合特区制度をスタートさせました。外国人来訪促進計画を策定した地域では、通訳案内士法の特例として特区自治体が実施する研修を終了すれば特例ガイドとして有償でガイドを行えます。
 現在、世界遺産がある観光地や、震災を考えるに相応しい地域など全国19地域で特例ガイド制度が導入され、651人の特例ガイドが地域に根ざした案内を行い、外国人旅行者をもてなしています。政府は当初、東京オリンピックが開催される2020年までに外国人旅行者を2000万という目標を掲げていました。しかし、今年中にも達成されそうなため、新たな目標設定を急いでいます。
 特例ガイド制度を導入したように、通訳案内士の需要は高まっています。しかし、約1万9千人いる通訳案内士のうち、就業者数は4分の1程度だといわれています。これは通訳案内士としての仕事量が安定せず、収入にばらつきが大きいためです。さらに、依頼を受け付ける窓口の不備や、無資格者との境界が不透明なことなど、通訳案内士を取り巻く社会環境はまだまだ厳しいものがあります。
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