増大する遺伝子組み換え作物【社会】

増大する遺伝子組み換え作物


【遺伝子組み換え技術の歴史と現状】
 世界的に食糧事情が悪化する中、遺伝子組み換え農作物(食品)に対する期待が高まっています。遺伝子組み換え技術を導入して作られた作物は、従来の作物では見られない数々の特性を持っています。世界的に食糧不安が懸念される今日、遺伝子組み換え作物のニーズが高まり、作付面積や収穫量は拡大し続けています。
 しかし、異なる品種の遺伝子を人為的に取り込むことに対し、食の安全や環境への影響を懸念する声が根強くあります。遺伝子組み換え食品を取り巻くさまざまな問題について考えてみたいと思います。

増大する遺伝子組み換え作物 - 品種改良から遺伝子組み換え技術に -
 遺伝子組み換え技術の歴史は、17世紀末にまで遡ります。当時から掛け合わせの手法によって、農作物の遺伝子の組み合わせを変えることによる品種改良が行われてきました。1865年にメンデルが遺伝の法則を発見し、遺伝の視点から人工交配が行われるようになり科学的な品種改良が行われてきました。しかし、求める品種にたどり着くまでに、目的にかなった品種を選び出し、何代もの交配を重ねて安定した種を確保するには多大な時間を必要とします。時には途中で断念することもありました。
 遺伝子組み換え技術とは、ある生物種から遺伝子を取り出し、別の生物種の中に導入する技術のことです。生物は遺伝子によって形状や特性などが決められ、親から子に引き継がれていきます。別の生物種から新たに遺伝子が導入された生物種は、元々持っていなかった新たな形質を獲得することが出来ます。この遺伝子組み換え技術を農作物に応用したのが遺伝子組み換え作物です。
 生物の持つ能力や性質を上手く利用して、私たちの暮らし全般に役立たせる技術を包括してバイオテクノロジーと呼んでいます。

増大する遺伝子組み換え作物 - 遺伝子組み換え技術開発の歴史 -
 1973年にアメリカで、遺伝子組み換えの基礎技術を使って世界で初めて大腸菌の遺伝子組み換えに成功しました。また、人間の体内で作られるインスリンを、遺伝子組み換えの微生物を利用して大量生産を可能にし、糖尿病の治療薬として普及していきました。このように、遺伝子組み換え技術が確立した当時は、微生物において実用化が進みました。
 1980年代に入ると、植物での遺伝子組み換え技術も確立し、農作物の品種改良に利用されるようになりました。84年にアメリカで初の遺伝子組み換え作物としてタバコが開発されました。そして94年、遺伝子組み換え技術を駆使して完熟でも日持ちするトマトが開発され、遺伝子組み換え食品としてアメリカで発売されました。さらに、96年には農産物の主要品目となるトウモロコシや大豆などでも遺伝子組み換え技術が導入され、商業栽培が始まりました。日本で初めて遺伝子組み換え作物が食品として認可され、輸入が許可されたのはこの年です。

増大する遺伝子組み換え作物 - 世界の栽培面積の約11%で栽培 -
 主要作物の商業栽培が始まった1996年以降、遺伝子組み換え作物の栽培国は増え続け、2012年には28か国に達しています。このため栽培面積も拡大し、1996年当時、約170万haだったものが、2012年には1億7030万haにまで拡大しました。これは日本の耕地面積(約455万ha)の約38倍、世界の耕地面積約15億haの11%にあたります。
 栽培面積の半分近くを占めているのがアメリカで、次いでブラジル、アルゼンチン、インド、カナダと続いています。また、アジアやヨーロッパの一部の国でも商業栽培が行われ、エジプトなどアフリカ諸国でも関心が高まっています。栽培されている遺伝子組み換え作物は、大豆(8.070ha 47%)、トウモロコシ(5.510ha 32%)、綿(2.430ha 15%)、なたね(920ha 5%)の主要4品目で99%以上を占めています。
 遺伝子組み換え作物の栽培面積が毎年増えている理由として、農業大国アメリカの強力な支援、生産農家の負担軽減や収入増、農薬散布減少による環境への負担軽減、発展途上国の食料問題などが挙げられます。


≪遺伝子組み換え作物と日本の対応≫
- 日本では商業栽培を行っていない -
 1996年以降、遺伝子組み換え植物の商業栽培が世界中に広がっていきました。しかし、日本では消費者の安全性や環境への影響などを懸念する声が強く、トウモロコシや大豆など栽培が承認されている品種はあるものの、商業栽培は2009年にサントリーが遺伝子組み換え技術で開発した「青いバラ」以外は行われていません。種苗会社も需要が見込めないとして、国内では販売していません。
 農林水産省などでは、寒冷、乾燥、塩害など不良な生育環境に強い作物、家畜飼料用に病気に強く収穫の多い作物などの研究を進めています。将来は農作物以外にも、花粉症治療薬などの医薬分野、土壌改良などの工業分野での利用も視野に入れて、各種実験や研究に取り組んでいます。

増大する遺伝子組み換え作物 - 食品8作物、添加物7種類を承認 -
 現在、日本では家畜の飼育用や加工食品の原材料として多くの遺伝子組み換え作物を海外から輸入しています。2012年3月現在、日本で食品衛生法や食品安全基本法に基づいて安全性が確認され、販売が認められているのは、大豆やトウモロコシなど食品8作物(169品種)、添加物7種類(15品目)です。
 輸入トウモロコシの多くは飼料の他、液糖や水あめ、菓子、製紙・段ボールなどに加工され、幅広い分野で使用されています。大豆・菜種・綿は主として食用油に加工され、パパイアは生食用に使用されています。最近ではアルファルファ、てんさい、じゃがいもの輸入実績はありません。


- 遺伝子組み替え作物の輸入大国 -
 2011年のトウモロコシの輸入量は1112万4000トンで、このうちの74・7%をアメリカの遺伝子組み換えトウモロコシが占めています。また、176万2000トン輸入している大豆も、アメリカ産の遺伝子組み換え大豆が64・6%を占めています。
 菜種の輸入量は233万2000トンで、この内96・8%がカナダ産となっています。綿は10万9000トン輸入していますが、オーストラリア産が94・3%を占めています。これはオーストラリアにおける遺伝子組み換え綿の栽培率100%、つまり全ての遺伝子組み換え綿を日本に輸出していることになります。
 このように、日本は国内で遺伝子組み換え作物の商業栽培はしていないものの、遺伝子組み換え作物の輸入大国となっています。

増大する遺伝子組み換え作物 ≪遺伝子組み換え作物の安全性≫
- 組み込まれた遺伝子に対する不安 -
 日本は1996年、当時の厚生省(現厚生労働省)が7種類の遺伝子組み換え作物の輸入を承認しました。しかし、消費者団体などから遺伝子組み換え作物や加工品の安全性に対して強い不安が寄せられました。当時の世論調査では、70%を超える人が不安を示し、80%以上の人が表示義務の徹底を求めています。このように遺伝子組み換え作物について、輸入開始当初から安全性について不安視され、現在でも引き継がれています。
 遺伝子はDNA(デオキシリボ核酸)という物質からできていて、タンパク質を作る働きをしています。植物の色や形を決めているのは遺伝子の働きによるものです。遺伝子組み換え作物に組み込まれた遺伝子は優れた働きはするものの、組み込まれた遺伝子や、遺伝子によって作られるタンパク質が有害物質を作る可能性があるのではと指摘されています。


- 具体的な不安事例と国の対策 -
 多くの遺伝子組み換え作物は、特定の除草剤では枯れず、しかも害虫に強いという性質を持っています。つまり、遺伝子組み換え作物を特定の害虫が食べると死んでしまいます。これは遺伝子組み換え作物に、Btタンパク質が組み込まれ、害虫の消化管に入って活性化して消化管の細胞を破壊するためです。しかし、人間の胃は酸性のためにBtタンパク質は分解され、しかも消化管にBtタンパク質の受容体がないので人が食べても影響はありません。
 また、アレルギーの原因は主にタンパク質であるため、組み込んだ遺伝子からできるタンパク質がアレルギーの原因の一つになるのではという不安もありました。このため、既に知られているアレルギー原因物質のアレルゲンに似ていないか、胃や腸できちんと消化されるか、加熱処理で分解されるかなどをチェックし、アレルギーを疑わせるものは市場に出ないように厳しくチェックされています。
 厚生労働省では、専門家で構成される食品安全委員会に依頼し、遺伝子組み換え作物に組み込む遺伝子、遺伝子を運ぶベクター、新規タンパク質のアレルギー評価などをさまざまな角度からチェックして食の安全を図っています。また、消費者庁では、遺伝子組み換え食品に対し表示義務を課し、消費者の不安解消に努めています。
 途上国を中心とした世界的な食糧難、食糧の約60%を輸入に頼る日本、今後、遺伝子組み換え作物はどのように推移していくのでしょうか。


≪生物多様性の確保を目指す「カルタヘナ議定書」≫
 「カルタヘナ議定書」は、2000年1月にカナダのモントリオールで採択されましたが、前年の1999年にコロンビアのカルタヘナで議定書の採択に向けた締約国会議が開催されたことからカルタヘナ議定書と名付けられています。
 カルタヘナ議定書は、生物多様性の保全や自然環境に悪影響を及ぼすものに対して対策を講じるとともに、遺伝子組み換え生物などの使用や国境を越えた移動についての手続きを定めた法律です。2016年3月現在、170の国と地域が締結していますが、主要産出国のアメリカやカナダは批准していません。
 日本は2003年に締結し、生物の多様性を守るために遺伝子組み換え生物などの規制を農林水産省、厚生労働省、環境省など6つの省が関わってカルタヘナ議定書の的確かつ円滑な実施を行っています。

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