日本にカジノは是か非か【社会】

日本にカジノは是か非か


【IR計画とギャンブル依存症を考える】
 今年7月カジノを含む統合型リゾート施設「IR」実施法が成立し、「カジノで観光振興を」と意気込む自治体の誘致合戦が熱気を帯びています。ギャンブル依存症の疑いのある人が320万人と推定され、ギャンブル大国ともいわれる日本にカジノの誘致は必要でしょうか。先立って成立したギャンブル依存症対策基本法では、政府にギャンブル依存症対策に向けた計画の策定を義務付けています。地域振興か、ギャンブル依存症防止か、カジノの是非を考えてみました。

日本にカジノは是か非か - 全国で3カ所を上限に入場料は6000円 -
 カジノを含む統合型リゾート施設「IR」実施法(IR法)では、カジノや国際会議場、ホテル、ショッピングセンターなどを一体化した「統合型リゾート」の設置が全国で3カ所まで認められます。
 ギャンブル依存症の対策として、日本人についてはカジノ入場回数を週3回、月10回までに制限し、マイナンバーカードでの本人確認が義務付けられています。入場料は6000円を徴収するとしています。
 注目されるカジノの運営は、新たに行政機関として「カジノ管理委員会」を設置して事業者を選定し管理を行います。カジノ事業は免許制で、収益の30%を国が徴収して立地する自治体と折半し、観光振興などの財源に充てるとしています。
 しかし、ギャンブル好きにとって6000円の入場料や、「週3回、月10回」という入場制限が果たしてギャンブル抑制につながるのかどうか。またカジノ管理委員会がどこまで権限を持つのかなど、多くの検討課題が残されています。
日本にカジノは是か非か - 北海道、愛知、大阪、和歌山などが候補に -
 全国に3カ所を上限として設置される統合型リゾート(IR)施設は、最初の認定から7年後に設置個所の見直しができるとしています。自治体の申請や国の認IR実施法の狙いを、「健全なカジノ事業の収益を活用してIR整備を推進し、世界中から観光客を集める滞在型観光を実現する」と説明しています。
 カジノを含むIR導入のメリットは経済波及効果と地方振興です。シンクタンクの大和総研によりますと、北海道、横浜、大阪の3カ所にIRが整備された場合、経済効果は施設建設で約5.1兆円、運営で年間約2兆円に上ると試算しています。
 現在IRの誘致には北海道、大阪府、和歌山県、長崎県などが検討しており、愛知県、千葉市、東京都、横浜市などが関心を示しています。

- ギャンブル依存症の疑いは320万人も -
 一方、カジノ誘致のデメリットは何といってもギャンブル依存症の増大や、暴力団など反社会的勢力との結びつきが生まれる懸念です。
 厚生労働省が2017年度に行った成人1万人を対象にした調査では、生涯でギャンブル依存症が疑われる状態になったことのある人は3.6%と推定しています。国勢調査データに当てはめるとおよそ320万人にのぼる計算になります。
 生涯でギャンブル依存症が疑われる人の割合を諸外国と比較すると、オランダが1.9%(06年)、フランスが1.2%(11年)、スイスが1.1%(08年)となっており、日本は飛び抜けて高い数値となっています。
 ギャンブル依存症は、ギャンブルにのめり込んでコントロールができなくなる精神疾患の一つで、適切な治療と支援によって回復が十分に可能です。しかし、本人が「自分は病気ではない」と主張して現状を正しく認知できない場合があり、放置しておくと症状が悪化して経済的に破綻し、家族崩壊や自殺、犯罪の誘発などに至る恐れがあります。
 IR実施法の前提となるギャンブル依存症対策基本法では、ギャンブル依存症を「本人や家族の日常生活に支障を生じさせ、多重債務、貧困、虐待、自殺、犯罪など社会的問題を生じさせている」と規定し、政府に依存症予防などの計画策定を義務づけています。
- パチンコ、競艇など日本はギャンブル大国 -
 パチンコ・パチスロという実質上のギャンブル施設(ホール)が全国に約1万カ所ある日本は、すでにギャンブル大国だといわれます。
 さらに競馬や競輪、競艇といった公営ギャンブル競技が全国各地で開催され、場外でも投票券(馬券、舟券など)が購入でき、インターネット投票でいつでもどこでもスマホ一つで手軽にギャンブルにアクセスすることができます。
 日本が諸外国に比べてギャンブル依存症の罹患率が高いのは、パチンコ・パチスロが生活の身近にあるためで、日本でギャンブル依存症のおよそ8割がパチンコ・パチスロ依存症といわれます。

- 急がれるギャンブル依存症の抜本対策 -
 またカジノでは莫大な掛け金が動くだけに、収益が反社会的勢力の資金源になったり、不正に得た資金を合法的なものに見せかけるマネーロンダリング(資金洗浄)に利用される恐れが付きまといます。
 日本はギャンブル大国といわれながら、依存症対策が全く講じられず、シンガポールや米国などで行われている青少年向け予防教育も実施されていません。そもそもギャンブル施設に出入りする際の年齢確認すら徹底されていません。
 IR実施法の成立を機に、改めてギャンブル依存症問題とその抜本的な対策に向けた国民的議論が必要となっています。
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