加速する携帯電話料金引き下げの動き【社会】

加速する携帯電話料金引き下げの動き


 【変わりゆく携帯電話ビジネス】
 現在、日本の携帯電話会社は、大手キャリアと呼ばれるNTTドコモ、ソフトバンク、KDDIの3社に統一されています。政府は大手キャリアに携帯電話料金の引き下げを求めており、そのための新ルール導入が進んでいます。さらに、大手キャリアに比べて携帯電話料金が格段に安い「格安SIM・格安スマホ」の人気が年々高まっているほか、2019年10月から楽天がキャリア事業に一部参入しました。これら携帯電話料金の見直しに向けた動きについてまとめてみました。

加速する携帯電話料金引き下げの動き - 政府が携帯電話料金引き下げについて発言 -
 2018年8月21日に、菅義偉官房長官が札幌市内での講演会で「携帯電話事業者は公共の電話を利用しているので、過度な利益を出すべきではない」「現在の携帯電話は料金があまりにも高すぎるのではないか。4割程度引き下げる余地はある」と発言しました。また、管官房長官は「2年縛り」「4年縛り」などの長期契約を結ぶ代わりに最新のスマートフォンの本体代金を安くする販売方法についても見直すべきだと言及しました。野田聖子総務大臣(当時)も、18年8月28日の記者会見で、菅官房長官の発言を受け、「総務省は常日頃から取り組んできた」と語った上で、携帯料金引き下げに積極的な姿勢を示しました。
 管官房長官が「過度な利益」と指摘したように、大手キャリアと呼ばれる、NTTドコモ、ソフトバンク、KDDIの18年4~6月期決算はいずれも増収増益となり、ソフトバンクとKDDIは純利益ベースで過去最高益を更新しました。3社の営業利益率は、NTTドコモが20・4%、ソフトバンクが14・2%、KDDIが19・1%となり、他業界に比べて高い水準でした。

- 新ルール導入でビジネスモデルが変わる!? -
 現在の携帯電話会社のビジネスモデルは顧客の「囲い込み型」となり、販売奨励金をつけて通信端末を安く売り、代わりに通信料金を高く設定することで、長期契約によって利益を上げています。このビジネスモデルを政府は問題視し、通話料金と端末代金の完全分離を義務づける法改正を決め、19年5月に改正電気通信事業法を成立させました。大手キャリアはこれを受けて料金プランの変更に乗り出しましたが、政府は対応が十分でないと判断し、19年秋に携帯料金の新ルール導入を進めています。
 携帯料金の新ルールで柱となるのは、2年契約を途中でやめる際の違約金を1000円以下に抑えることです。これまで大手キャリアでは、そろって9500円の違約金を徴収しており、これが囲い込みにつながっていました。
 さらに、携帯料金の新ルールでは、同じ携帯電話会社を長く使っている利用者への優遇に制限をかけるほか、通信端末の代金と通信契約をセット販売するときの端末の値引き額に上限2万円という制限をかけるとされています。セット販売の値引きに上限を設けるのは、値引きに使われていた原資を通信料金の引き下げに回してもらおうという狙いです。

- キャリア事業への楽天参入が意味すること -
 楽天(楽天モバイルネットワーク)が、新ルールの導入と同時期にサービスを開始することも、大手キャリアの値下げを後押しするとみられています。楽天は2018年4月6日に総務省の電波監理審議会の審議を経て、通信キャリアとして携帯電話事業に参入が決まりました。楽天は、「楽天モバイル」として、14年から「格安SIM・格安スマホ」の一つであるMVNO事業に参入しており、同事業でシェア1位を獲得しています。楽天の三木谷浩史社長は、このMVNO事業で培ったノウハウを活かし、「低廉で利用しやすい携帯電話料金を提供する」と発言しています。
 携帯料金の新ルールによって、携帯電話会社が顧客を囲い込めずに解約が増えると、収益が安定しないため、通信料金の値下げに尻込みする可能性があります。しかし、楽天の参入によって価格競争が激化すると、他の携帯電話会社も競争力のある料金プランを出さざるを得なくなるだろうと考えられています。
加速する携帯電話料金引き下げの動き - 世界的に見ても高額な日本の携帯料金 -
 総務省が公開する「電気通信サービスに係わる内外価格差調査 平成29年度調査結果」では、日本と世界の都市で携帯料金の国際比較が掲載されています。比較対象となった都市は、東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、デュッセルドルフ、ソウルの6都市です。
 この調査によると、各国の大手3キャリアのスマートフォンの携帯料金を比較した場合、東京はデータ容量が月2GBと5GBのプランで、それぞれニューヨーク、ソウルに次ぐ3番目に高額な都市でした。月20GBのプランだと、東京はニューヨークを上回り、最高額でした。
 シェアトップ(日本はNTTドコモ)に限って比べると、東京は月2GBのプランで、ニューヨークをわずかに下回って2位、月5GBと20GBのプランではニューヨークを抜いて最高額となりました。さらに、これを東京と他の5都市の平均とで比べてみると、他の5都市の平均は、東京よりも月2GBのプランで4割、月5GBのプランで5割、月20GBのプランで3割5分ほど安いことがわかりました。
 一方、MVNOの場合、東京は月2GBと月20GBのプランで4位、月5GBのプランで2位となり、中位の水準にとどまっていました。フィーチャーフォンの場合、ニューヨーク以外は各都市とも低価格で、東京は3位ではあるものの、6位との価格差はわずか361円しかありません。
加速する携帯電話料金引き下げの動き - シェアを増やし続ける「格安SIM・格安スマホ」 -
「格安SIM・格安スマホ」とは何なのか
 携帯料金が大きく下がることで、近年、人気が高まっているのが「格安SIM・格安スマホ」です。「格安SIM・格安スマホ」は、通常の携帯料金の半分もしくはそれ以下の料金で提供される通信サービスです。格安SIMと格安スマホはほぼ同じ意味で使われますが、格安SIMは「SIMカードのみ」を契約すること、格安スマホは「SIMカードとスマホをセット」で契約することを指す場合が多いです。
 ちなみにSIMカードとは、スマートフォンに必ず装着されているICカードの役割をするカードです。この中には、契約者(利用者)の識別番号や電話番号などの情報が記録されており、これを古いスマートフォンから新しいスマートフォンに差し替えることで、容易に機種変更を行うことができます。
 「格安SIM・格安スマホ」には、MVNOとサブブランドという二つの区分があります。MVNOは、Mobile Virtual Network Operator(仮想移動体通信事業者)の略で、無線通信インフラを自社で持たずに、他社のインフラを借りて音声通信やデータ通信のサービスを提供する事業者を指します。
 日本では、2001年の秋に初めてMVNOの事業者が登場し、17年12月末の段階で817社が参入しています。なお、自社で回線を持つ大手キャリアは、MNO(Mobile Network Operator/移動体通信事業者)という区分になります。

- MVNOのメリット・デメリット -
 MVNOが、大手キャリアの携帯料金に比べて安いのには、いくつかの理由があります。一つは、維持費や設営費などに莫大な資金が必要な通信回線を自社で持たず、大手キャリアから安く仕入れてその一部を利用しているためです。二つ目に、実店舗をほとんど持たないことで人件費や店舗の維持費を節約したり、広告費を抑えたり、徹底したコストダウンに努めているからです。
 料金面で非常に魅力的なMVNOですが、デメリットもあります。最大のデメリットは、大手キャリアに比べると通信速度が遅くなりやすいことです。「格安SIM・格安スマホ」は、大手キャリアから回線を借りていることで、一度に使えるデータ量に制限があります。そのため、多くの利用者が一度に大量のデータをやりとりすると、混み合ってしまい通信速度が遅くなります。とくに、多くの人が昼休憩をとる平日の12~13時、社会人や学生が帰宅する平日の18~19時といった時間帯は、通信速度が遅くなりがちだと言われています。
 また、MVNOは実店舗がほとんどなく、人件費も抑えられているため、サポート面が大手キャリアほど充実していません。通信の初期設定なども自分で行う必要があり、スマートフォンに慣れていない人には負担になると考えられます。

- 大手キャリアが展開するサブブランドとは? -
 「格安SIM・格安スマホ」のもう一つの区分に、サブブランドがあります。これは大手キャリアがメインブランドとは別に立ち上げた低価格帯の別ブランドのことです。大手キャリアであるソフトバンクが、「ソフトバンク」とは別に展開する「Y! mobile」がこれに当たります。また、「au」を展開する大手キャリア、KDDIの連結子会社であるUQコミュニケーションズは「UQ mobile」を展開しています。こちらは区分としてはMVNOになるものの、サービス内容や料金帯はほぼサブブランドです。
 サブブランドは、大手キャリアとMVNOの中間に位置するものだと言えます。携帯料金は、大手キャリアと比べると安く、MVNOに比べると高い金額が設定されています。通信の速度や安定度も、大手キャリアほどではないもののMVNOより良質です。サポートやプロモーション活動についても同様です。
 また、MVNOの携帯料金プランにある「無料通話サービス」は「最初の〇分のみ無料」といった制限がかけられているのが一般的です。大手キャリア(MNO)の携帯料金プランには時間無制限の無料通話がつけられているものがあり、サブブランドにも同様のものがつけられています。
加速する携帯電話料金引き下げの動き - 携帯電話市場のこれまでとこれから -
 MMD研究所が2019年3月に行った「メインで利用している通信サービス」の調査で、「格安SIM・格安スマホ」に該当するMVNOやサブブランド(Y!mobile)をあげた人は、全体の17・5%でした。これは18年9月の同様の調査に比べると1.4ポイント増加しており18年3月に比べると3.6ポイント増加しています。一方、19年3月の同じ調査で大手キャリアをあげた人は全体の79・1%でした。これは、18年9月の同様の調査と比べて1.5ポイント減っており、18年3月の同様の調査と比べると3.5ポイント減っています。また、格安SIMの回線契約数は、14年3月末は173万回線でしたが、18年9月末には1202・7万回線にまで増加しています。
 今後、「格安SIM・格安スマホ」の市場は、個人向けスマートフォンの用途としては、成長スピードが鈍化するものの、IoT向けの需要が拡大すると考えられています。IoT(Internet of Things)とは、「モノのインターネット」という意味で、IT関連機器以外のモノをインターネットでサーバーやクラウドサービスに接続し、相互に情報交換ができるようにすることです。
 政府が積極的に進める「携帯料金値下げ」の動きは、大手キャリアと「格安SIM・格安スマホ」との価格差を縮め、「格安SIM・格安スマホ」市場拡大を妨げる可能性があります。一方、通話料金と端末代金の完全分離の義務化は、「格安SIM・格安スマホ」がSIMカードのみの契約が主流なので、同市場への追い風になることでしょう。
携帯電話・スマートフォンは、私たちの生活にとって不可欠なものです。今後それぞれの企業から、より使いやすくわかりやすい通信サービス、料金プランが出てくることを期待したいものです。
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