鳥インフルエンザの脅威 中国で感染広がる【環境】

鳥インフルエンザの脅威 中国で感染広がる


 世界保健機構(WHO)は今年4月1日、中国で鳥インフルエンザ(H7N9)ウイルスに感染した患者が発生したと公表しました。5月1日現在、感染者は128人に増え、死者は24人に上っています。
 鳥インフルエンザは、一般的には鳥の間で循環するウイルスで、種の壁によってヒトへの感染はないとされてきました。ところが、感染を繰り返す過程で変異し、過去に鳥インフルエンザ(H5N1)などがヒトに感染し、大きな被害を出してきました。今回、新しいタイプの鳥インフルエンザ(H7N9)の感染患者が発生したことで、今後の感染の拡大が心配されています。なぜ、鳥インフルエンザがこれほど恐れられているのでしょう。その原因を探ってみました。


【鳥インフルエンザを起こすウイルスって何?】

鳥インフルエンザの脅威 中国で感染広がる - インフルエンザウイルスは3種類 -
 インフルエンザウイルスには、A型、B型、C型があります。A型インフルエンザウイルスは、ヒトや動物が感染します。B型とC型インフルエンザウイルスは、一般にヒトだけが感染します。ヒトがA型やB型インフルエンザに感染すると、風邪の諸症状とともに38℃を超える高熱を出します。これが、人に集団感染し、学級閉鎖などを引き起こす「インフルエンザ」です。C型インフルエンザは、鼻水を出す程度で終わることが多く、感染を繰り返すことはあまりありません。

【過去に経験した新型インフルエンザの大流行】
 この中で、遺伝子の複製過程で何らかの変異が生じて、世界的大流行(パンデミック)を引き起こすのがA型インフルエンザウイルスです。A型インフルエンザウイルスの表面には、H型(赤血球凝集素、16種)とN型(ノイラミニダーゼ、9種)というトゲのようなタンパク質が突き出し、トゲの組み合わせで分類されています。
 このトゲは、宿主に取り付くときや、複製を終えて出て行くときに重要な役割を果たしますが、変異を起こしやすい性質を持っています。H型やN型の遺伝子に変異が起こると、同じウイルスであってもその表情を変えていきます。少しずつ表情を変えるため、人がせっかく作った免疫を巧妙にくぐり抜け、毎年のように流行を繰り返しています。
鳥インフルエンザの脅威 中国で感染広がる - 鳥インフルエンザウイルス -
 A型インフルエンザウイルスは、人間などの哺乳類や鳥類に広く分布していますが、その起源を遡ると水禽類、中でもカモが有力と見られています。鳥インフルエンザウイルスは、野生の水禽類を自然宿主とし、水禽類の腸管で増殖し、糞を媒介にして感染を広げます。しかし、宿主自体に病原性を発揮させることはありません。
 水禽類に感染していたウイルスは、野鳥などを経由して家禽類に感染していきます。家禽類に感染したウイルスは、その中で感染を繰り返し、そのうちに鶏や豚などの家禽類に病原性を発揮させます。これを鳥インフルエンザと呼び、ヒトや他の動物に感染した場合も鳥インフルエンザという感染症名を使用しています。
 鳥インフルエンザの中には、感染を繰り返す過程で遺伝子の変異が起こり、鳥類の大量死亡など非常に高い病原性を示すものがあります。これを「高病原性鳥インフルエンザ」と呼び、殺処分、卵や食鳥の移動禁止などの処置が取られます。
 A型インフルエンザのうち、H5型およびH7型による感染症は非常に高い病原性を示すものがあり、世界中で恐れられています。それは、鳥からヒトへの感染が心配されるからです。
鳥インフルエンザの脅威 中国で感染広がる - 過去、鳥からヒトへの感染が -
 これまで、ウイルスは宿主となる動物の種の壁によって、鳥からヒトに感染しないと考えられてきました。ウイルスが取り付く受容体(細胞)が鳥とヒトとは異なるため、本来、鳥から鳥、人間同士といった互いの感染以外は考えられなかったのです。しかし、今回の中国の鳥インフルエンザでは、感染源や感染経路などはまだ不明ですが、患者の中に動物と接触した人が含まれ、上海の市場ではハトからウイルスが見つかっています。
 ウイルスの感染は、種の壁に守られていると考えられていましたが、この壁は絶対的な物ではなかったのかも知れません。鳥から鳥に感染していく中で遺伝子の突然変異が起こり、変異した大量のウイルスの中から、種の壁を乗り越えるウイルスが生まれた可能性が考えられます。
 WHOに報告された鳥インフルエンザ(H5N1)に感染した人は、図1にあるように2003年~2013年の間に622人に達し、このうち371人が死亡しています。それ以外にも、世界各地で鳥インフルエンザH9N2やH7N7、H7N3などに罹り、命を落とした人も少なくありません。

鳥インフルエンザの脅威 中国で感染広がる - 感染者の拡大で、世界的大流行が心配 -
 恐ろしいことに、一時的に鳥インフルエンザの感染、発病を食い止めてもこうしたウイルスは世界各国にあっという間に広がり、静かに潜んでいる可能性が高いのです。人間の感染者が増えると、ヒトのインフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルスが混じり合い、ヒトからヒトに感染しやすい新型インフルエンザウイルスが誕生する可能性が高まります。
 新型インフルエンザウイルスが誕生すると、私たちは新型に対する免疫がないため急速に感染が広がる可能性があります。その結果、パンデミックが心配されます。現在、残念ながら効果的な予防法や治療法が整備されておらず、全世界で多くの犠牲者が出ることが予想されています。
 中国の場合、まだヒトからヒトへの感染は確認されていません。しかし、過去に鳥インフルエンザウイルスが、ヒトからヒトへ感染した例が報告されています。2003〜2004年にかけてアジアで流行した鳥インフルエン(H5N1)で、ベトナムで15人、タイで8人が死亡、またインドネシアでも多くの死者が出ました。この中に、明らかにヒトからヒトへの感染と見られるものが含まれています。
 こうした感染が繰り返されると、ヒトに対して非常に強い感染力を持つウイルスに変異してしまう可能性があります。中国の鳥インフルエンザ(H7N9)は、新しいタイプの鳥インフルエンザのため、今後どのように推移していくのか世界中が関心を寄せています。

- 高病原性インフルエンザの症状は? -
 弱毒性のインフルエンザウイルスは、呼吸器や消化器の粘膜に留まります。ところが、高病原性鳥インフルエンザは、鶏などの家禽の全身がウイルスに感染し、ほぼ100%死に至る恐ろしい病気です。感染した鶏が100羽単位で死んでいる写真や映像を目にした人もいることでしょう。
 ヒトがこのウイルスに感染すると、突然38℃を越える高熱に見舞われ、咳や痰などの気道症状が現れます。さらに下痢、嘔吐、腹痛や胸痛などを発症し、全身倦怠に陥ります。そして重症の人は、肺炎や全身の多臓器不全で命を落とすのです。H5N1型高病原性鳥インフルエンザによる致死率は、60%前後と大変恐ろしい数字を示しています。
【鳥インフルエンザから身を守るには!】
- 「鳥インフルエンザ」が発生すると -
 鳥インフルエンザは、そのウイルスが完全に滅んでいない以上、いつどこで出現するか予測できません。残念ながら、鳥インフルエンザの発生を未然に封じ込める方策がまだ見つかっていません。このため、感染拡大を防ぐためには、感染した鳥を速やかに殺処分することが必要になります。それが、ヒトへの感染源となるウイルスを減らし、ヒトがウイルスに触れる可能性を減少させるからです。
 鳥インフルエンザに感染すると、最新の医療体制を持つ医療機関でも有効な対処方法が確立していません。現在では、ウイルスの増加を抑制する抗インフルエンザ薬の早期投与が有効とされていますが、治療効果はまだ実証されていません。
 予防の決め手になるのはワクチンですが、ワクチン開発には新型インフルエンザの株をもとに開発するため、発生から製造まで半年以上もかかるのが現実です。

- 通常のインフルエンザ対策を徹底 -
 鳥インフルエンザは通常のインフルエンザと同様に、感染した人の咳やつばなどから放出されたウイルスを吸入することで感染します。
 このため、個人でできる対策としては、ウイルスの吸入を避けるために外出時のマスクの着用、人込みに必要以外に立ち入らないことや、外出後のうがいや手洗いなどが上げられます。 また、食事で肉類を食べるときは、きちんと火を通したものを食べるように気を付けなければなりません。通常、70℃に達するとインフルエンザウイルスは死んでしまいます。また、動物がいる市場などに行く時は、直接手に触れることは避ける方が安全です。
 また、風邪の諸症状を訴える人には、マスクの着用や自宅での療養を促すことや、バランスのとれた食事、適度の休養など、いつものインフルエンザ対策を徹底させることが大切です。

【感染拡大に備え、H7N9型を指定感染症に】
 中国大陸だけでなく、台湾にも感染が拡大する鳥インフルエンザ(H7N9)。現時点ではヒトからヒトへの感染や、日本での感染は報告されていませんが、日本に上陸する恐れが十分に考えられます。
 厚生労働省は5月6日、中国での急速な感染拡大を受け、日本で患者発生した場合、早急に適切な措置を取れるように鳥インフルエンザ(H7N9)を、感染症法に基づく指定感染症に指定しました。指定感染症に指定されると、強制的な検査や入院、就業規制などの措置が取れるようになります。また、検疫法によって空港で38℃以上の発熱者や肺炎症状を起こしている人を認めると強制的に検査することができます。就業制限拒否や検査拒否には罰則規定が設けられています。
 感染症法は、致死率や感染力などの危険度に応じて感染症を1~3類に分類し、それ以外の動物や昆虫から感染する感染症を4類、季節性インフルエンザなどを5類と定めています。指定感染症の指定は2年間で、指定されると1~3類に相当する緊急的な対策が取れるようになります。これまで、指定感染症に指定された新型肺炎(SARS)とH5N1型鳥インフルエンザは、現在は2類感染症となっています。
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